必須の熊本 美容室
「身体の向きを変えないと、床ずれができて痛いから……。
ちょっとの辛抱ですから、がんばりましょう」そう言って、私たちは彼女を励まし、身体の向きを変えたのですが、そのたびに彼女は悲しそうに首を振り、「いいの。
いいの。
だから、動かさないで」と、かすれた声で言いながら、身体を動かされていたんです。
それだけ彼女につらい思いをさせて体位変換を行なったにもかかわらず、尾てい骨の床ずれは、やはり予防できませんでした。
食事がとれないことによる全身状態の悪化が、皮層をもろくし、その傷の治りを悪くさせるのは、前の例と同じ。
今度は、傷の消毒も必要になったため、身体を動かす必要も増し、彼女の苦痛はさらに強くなりました。
身体の向きを変えるたびに、私はいつも良心の阿責を感じていました。
これは、他の看護婦も同じだったはず。
〃床ずれを作るのは看護婦として恥ずかしい〃という気持ちから、いやがる彼女を無理やり動かすのは、ただの看護婦の自己満足じゃないか。
実際床ずれができても彼女は、その痛みよりも、身体を動かされるほうをいやがっている。
もう、どんなに床ずれができようと、動かさないであげたほうがいいんじゃないか。
そんな葛藤に、私たちはさいなまれていたのです。
床ずれができてから少したって、私たちは彼女の体位変換の回数を、ぐっと減らしましったのです。
ただ、あれから十年近くたってひとつ思うのは、彼女に関しては、痛みのコントロールそのものが、うまくいっていなかったな、という反省です。
今でこそ、一般の病院でも、がん末期の痛みに対しては多量のモルヒネ投与が認められています。
しかし、私が就職した当時は、まだ〃モルヒネの使用は死を早める〃と敬遠する医師がほとんどでしたし、実際、がん専門でない一般の病院で多量のモルヒネを使用することは、管理上難しい面があました。
た。
それでも、完全にやめなかったのは、同じ向きでずっと横になっていると、肺の、下になりつづけている部分に分泌物がたまり、肺炎を起こすおそれがあるから。
肺炎になって息苦しさが増せば、確実に彼女の苦痛は強まります。
一日数回は、身体の向きを変えるのは、避けられないことでした。
結局彼女は、骨までいたるような床ずれを作って、この世を去りました。
彼女の望むとおりにした結果でそうなったということで、私たちは努めて自分たちを責めないようにしここ数年は、モルヒネの使用が一気に一般的となり、座薬や飲み薬といったラインナップも充実。
やむなく点滴で投与する場合でも、多量のモルヒネを使用することが可能になりました。
最初は勝算があるという見込みで呼吸器をつけた場合もあれば、だめとわかりつつ、家族の希望でつける場合もある。
でも、いずれにせよ、患者さんが呼吸器で息をさせられながら、肉体が徐々に滅びていく現実を見るのは、なんとも悲しいものです。
最近床ずれが問題になるケースの多くは、人工呼吸器をつけて、かなり無理やり生かしている患者さん。
なんとか機械で呼吸をさせてはいても、少しずつ身体は死に向かっている…。
そのことを感じさせるのが、こうした患者さんの床ずれです。
カロリーの高い輸液をして、データ的には栄養に問題がなくとも、やはり生命力のなさはいかんともしがたいのでしょう。
二時間ごとに呼吸器を外して、身体の向きをぐっと変えることをくり返しても、いつしか尾てい骨のあたりが赤くなり、皮がむけ、壊死をしていきます。
ですから、彼女のように、最後の最後まで痛みで苦しんで、というパターンそのものが減ったことは、患者さんにとっても福音でしょうし、私たち看護婦にとっても大きな救い。
そうなってからは、彼女のような例は、ずっと減りましたから、ご安心を。
床ずれの予防のためには、身体が動かせるように痛みを取ってあげることもまた、大切な援助なんです。
せめて亡くなる時までに、床ずれを治そうと思っていろいろなことをしても、結局は無駄骨に終わることがほとんど。
多くの手間をかけて創意工夫をくり返しても、なかなかいい効果はあがらず、むなしい思いが残るばかりです。
これからも、垂日なら逝っていただろう人が、しばしこの世に足を止める世の中は続く。
私たちの床ずれをめぐる闘いと、感じるある種のむなしさは、けっしてなくなることはないでしよう。
自分を責めず、あきらめず。
この気持ちが必要であるのは、看護婦の仕事すべてに共通するものかもしれませんけどね。
私は絆創膏包交を「だれかホウコウの介助についてくれませんか」「ちょっとホウコウしてくる」と、病棟でよく使われる言葉のひとつ、ホウコウ。
知らない人が聞くと、〃患者さんに奉公するのか?〃などと思われるかもしれませんが、ホウコウとは包交と書き、もともとの言葉は〃包帯交換〃。
傷や、各種のチューブが入っている部分を消毒し、ガーゼなどで被って保護することをいいます。
昔は、本当に包帯を巻いていることも多かったのでしょうが、今ではネット式の包帯や固定しやすい絆創膏を使うのが主流です。
私なども、看護学校では包帯巻きの実習なんかもしましたが、今ではすっかり忘れるほど。
腕の傷、足の傷でときどき巻く○目になっては、自分の手のほうがぐるぐる巻きになつちやいます。
と言っても、今の包帯は伸縮性があるから、巻きやすく、ずれにくいはず。
それでもダメなんだから、昔の、さらしの包帯しかなかったころだったら、私なんて、看護婦失格だったでしょう。
今でも、腕や足といった長い部分には、包帯が使われることも多いよう。
ですから、整形外科の看護婦は、包帯巻きの手際がよく、内科ひと筋の私なんかは、感動して見ちゃったりします。
内科で〃包交″と言えば、チューブ類が挿入された部分の消毒と保護・固定、それに梶創(床ずれ)の処置が主。
ガーゼ、絆創膏、そして創傷を保護する各種ドレッシング剤(水分を外から通さず内からは逃がす、といった新しい素材の、傷を被っておく材料など)を使うことが多く、それぞれが工夫して包交をしています。
それら衛生材料の選び方から使い方まで、包交にはそれぞれの看護婦の流儀が出ます。
もっと言えば、性格も出る。
だからがさつなO型の私などは、いつも細心の注意を払ってやろうとするのですが、いつもぼろが出て…。
次の勤務の人がやり換えてくれているのを見ては、今も落ち込むことがしばしば。
それでも、日々工夫して、少しずつましになってきました。
看護婦九年目の今も、包交は奥が深く、ちょっとした気遣いで患者さんの快適さや行動範囲もアップする、楽しい援助だと思っています。
包交の際、一番私たちが気を使うのは、まず清潔操作。
傷口に直接手を触れないよう、うまく鋸子(ピンセット)を使って消毒し、ガーゼなどを当てていきます。
ここで難しいのは、直接傷口に触れて清潔でなくなった録子と、消毒薬につけた綿球などを取り出すための、清潔な鐙子との使い分け。
一連の動作は、見た目に複雑ですが、どこを一番清潔にしておかなければいけないかという理屈がわかると、意外に簡単です。
この、理屈がわかると一連の流れとして覚えられるというあたり、お茶の作法に似ていなくもありません。
新人のころは、先輩が傍らについて、この清潔操作については本当に細かく注意されたものです。
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